他大の修士課程に進学する学部生が気を付けると良いと思うこと(経済学)

(2021年2月現在)

昨年(2020年)は,日本経済学会がアウトリーチ企画を設けたり,MITの菊池さんがこのような活動をされたり,Princetonの山岸さんの報告書,他にも私が詳しく存じ上げない企画を含め,様々なアウトリーチ企画があったと記憶しています.特に,菊池さんや山岸さんのような院生の意見は,学部生にとって比較的身近な立場の人の意見で,とても刺激的なのではないかと思います.

このようなアウトリーチ企画に刺激され,私もまだ名義上は院生として,私ならではの視点で何か書くことが出来ないかと思い,他大修士課程)に進学するうえで気を付けると良いと思うことを書いてみようかと思います.そういう大学出身の方に向けて,狭義にはMARCHや関関同立程度の大学出身が旧帝や神大、早慶の修士課程に進学する場合を意識していますが,広義には内部進学する人にも役に立てばと思います.

このような題材を選んだ理由は,

だと感じるからです.MARCHや関関同立やその他の私立大学では,おそらく自大から出て外部進学する方が経済学研究者を目指すうえでは一般的であろうこと,また,これらの大学では院生の数も少なく院生と学部生のコミュニケーションも少ないために,大学院そのものの情報が少ないかと思います.そもそもこういったことが現実的にどのように問題なのか,そしてどう対策するかに関して私なりの視点を提供することが本記事の役割です.このような問題は早慶と比べてもMARCHや関関同立等で顕著だと思います.また私個人としては,MARCHや関関同立の大学出身でもこの経済学の研究業界で活躍されている先人は数多くいますし,私自身も今頑張っているので,そのような学生に少しでもエールを送れたらという思いもあります(私自身が,同志社大生の頃に,「どうせ自分はソルジャー採用だから,勉強しても無駄だから」と,努力をはじめから諦める友人を見て寂しく思っていた,というのも影響しています).

MARCHや関関同立のように,情報格差が大きな方が留意した方が良いと思うことは次のようなものです.

  1. コアコース(ミクロ経済学,マクロ経済学,計量経済学,数学)の準備
  2. (博士課程進学希望の場合)研究の準備
  3. (就職か悩んでいる場合)就職の準備 これらは内部進学(学部から同じ大学院に進学すること)の場合でも,同様に重要でしょう.ただし,以下で詳しく述べる理由で,外部進学(学部から違う大学院に進学すること)の場合は更なる注意が必要です.

1. コアコースの準備

内部進学の良いところの一つは,学部の間にコアコースを履修や聴講できることでしょう.内部進学を学部3年生の時点で決心している場合,それぞれの先生/授業が,(1)どういうトピックがカバーされるのか,(2)どういう難易度なのか,(3)過去にどのような宿題や試験を出したか,(4)採点はどの程度厳しいのか,等の情報を熟知して修士でコアを取ることが出来る場合もあるでしょう.また,学部のうちにコアコースを一部履修し,単位の持越しが出来る場合もあります.例えば,学部4年生でマクロを取り終えて,修士でミクロと計量だけを取るということも出来るでしょう.このように,外部生はコアコースの競争においてとても不利な立場に立たされると思います.そのため,しっかりとした予習で地力を高めておくことが鍵となります.

一般的な準備

を一度目を通しておくと,大分楽になると思います(※なおこれらの目安は私の独断と偏見であり,私の得意不得意を強く反映しています).コアコースでは,単に授業内容を理解するだけではなく,授業の内容をひねった宿題や試験が解けることを求められるでしょう.そのため,諸々の定義/定理等を授業で初めて習うことになってしまうと,相当つらいと思います.また,講義が始まってから上記の教科書を読み始めるには,どれも分厚いです.せめて「内容はイマイチ分からないが,どこに何が書いてあるかは覚えている」という状態にしておくことはとても大事です.後々の復習の効率が大きく変わってきます.

なお,相対的に,マクロは教える人によって内容が変わるので,それによって事前に必要な準備も異なると思います.一応,新古典派成長モデルと完備市場論はどの大学でも教えられるので,上記の内容は大事だと思いますが,他にも消費や投資等を教える先生も数多くいると思います.

数学の準備に関して言えば,個人的に岡田章著『経済学・経営学のための数学』の意味が分かるレベルならあまり問題を感じないと思った覚えがあります(残念ながら私は修士入学当時そこまでは出来ていなかったけれど).この教科書は淡白なので,初めて学ぶには解説や図解が足りないと感じるかもしれません.一方,ある程度分かってる人には必要なことを端的に書いてあるのでとても便利な本です.この本のありがたみが分かる人ならば,コアコースのための数学の準備は十分と言えるのかなと思います.もし,この本が難しいと感じるならば,それぞれ,解析,位相集合等の教科書を覗いてみて,自分に合うものを探すのが良いと思います.本には相性もあるので,Amazon等で評価が高い物だけではなく,色々覗いてみるのが個人的には良かったです.

なお,この教科書に書いてない概念で,コアコースで頻出する概念はupper hemi continuous等の対応(correspondings)関連の概念と,それらを使った最大値定理あたりの内容くらいだったかなと記憶しています.それらはMWGの補足やStokey and Lucas with Prescottとかでも出てきたかと思います(私事ですが今引っ越し作業中で、これらの本が確認できないのですが…).個人的にはEfe Okの教科書はそれらの部分の図解が豊富で分かりやすかったです.

さらに具体的な準備 教員によっては講義ノートや宿題をウェブサイトに公開している方々がいらっしゃいます.それを使って勉強するのが一番です.そして,その中で分からないことがあれば,時間をかけて上記のような教科書を読むのが吉だと思います.ややぶっちゃけて言ってしまえば,コアコースはあくまで講義と試験なので,本質的なミクロ/マクロ/計量の理解と難しく捉えるよりも,まずは最低限の成績を取れることに集中すべきだと思います.その上で自分の専門分野に関するものを深く理解すればよいのではないかな.

2. 研究の準備

経済学研究科ではコアコースが大きなハードルになっており,そちらの重要性が各SNSやブログで取り上げられるように思います(少なくとも私は学部時代そう感じていました).一方,大学院は研究者養成機関なので,研究に対する準備がやはり重要です.

分野やトピックの確定

まずは何を研究するかを決めないと研究は始まりません.意外と,トピックを決めること自体に時間をかけてしまう人は少なくありません.が,トピックを決めるのは,決めの問題(つまり,最後はエイヤと決めてしまう他ないもの)だと思います.トピックを決めるのが遅くなればなるだけ,実際の作業(例:リテラチャーを読み漁る,必要な手法を勉強する,try and errorの繰り返し)の時間が無くなると思います.トピックは早く決まればそれだけ良いのだと思います.

その次に,分野やトピックが決まれば,次に具体的に修論等の研究のアイディア出しです.ここが経済学の大学院で最も難しい点です.この難しさは前出の山岸さんのレポートがこれ以上ないくらい具体的に素晴らしくまとめていらっしゃいます.

山岸さんのレポートを私なりに要約すると,次のようなものになります.授業で教わるレベルと研究レベルには大きな隔たりがある.例えばコア修了直後の学力では『どの分野/トピックが,(どのように)難しいか』さえ分からない.しかし,経済学の大学院はラボ文化(発案は教員であったり,共著の場合,実装部分も教員が補佐する)ではなく,学生自身が発案から実装まで学生自身が責任を持つ文化が一般的.そのため,学生は長い時間をかけて試行錯誤をしてしまう.という感じです.正直,この壁は経済学系のどの大学院生も苦労するものであり,簡単な解決方法は無いように思います.しかし,この壁を知っているかどうかは大きな違いです.ひとまず,この壁を知った上で,私が標準的と思う分野やトピックの決め方を次で書いてみます.

(コメント:なお,近年,こういう問題は日本に限らず問題視する人が増えてきたように思います.2021年1月現在,この方の一連の発言はとてもバズっていたように思います.ざっくりまとめると,大学院生は裁量を持ちすぎており,過去に既に分かっていることを再発見する”車輪の再開発”に時間をかけすぎており,これはリソースの無駄遣いではないかということです.この解決策としては,ラボ文化のように教員がアイディア出しを担当し,その実装を院生等が担当することが一つなのでしょう.ただ,これはこれで別の問題点が出てくるのでしょう.行く末がどうなるのか私自身も関心があります.)

分野,トピックの決め方の基準の一例

次のような3つの点が分野,トピックの決め方の一例だと思います.

まず,習って無いことを一から学ぶのは非効率です.習ってないことを研究する場合,(1)その分野で最低限絶対に知っておくべきことは何か,(2)手法面ではどういう技術が必要か,(3)その上で独自性をどうやって出すか,という点を自分で勉強する必要があります.教わっている内容ならば(1)や(2)は既知の場合が多いので,教わった内容の方が効率的に研究に進みやすいです.個人的には,いわゆる修士2年目や博士後期課程1年目(欧米だと2nd year courseと呼ばれる授業)を研究の出発点にするのが無難です.やはり教員も専門分野に寄せたものを教えるので,教わった内容は教員の専門分野とも相性が良いはずです.

迷った場合は,教員の専門分野に沿ったことを研究することも,一つの手です.そうすると,教員から専門的な指導を受けやすいでしょう.技術面やリテラチャーからの新規性面で安心して研究が出来るのではないかと思います.

最後に,自分の興味関心はもちろん重要です.ただし,習ってないことや所属大学にその分野の先生がいないことに関心があるならば注意が必要です.そのような危険な状況でもどうしてもその研究をしたい場合,留学をするなり,博士後期課程で他大学に進学することを一度検討した方が良いのではないかと思います.

教員と相談する

教員はそれぞれ専門分野があります.何本も論文を書き,「発案→実装→完成品の宣伝(発表等)→出版」のサイクルを繰り返しているので,どのような工程でどのようなことに気を付けるべきか,経験に基づいた意見を持ってるでしょう.

また,専門分野外のことでも,教員は色々な分野のことを知っていることが多々あります.教員もかつてはこの壁に苦しみ,活路を見出さんと色々な分野をかじったり,今でも様々なセミナーや論文から専門分野外の知識を吸収している場合がとても多いかと思います.したがって,「A先生はトピックaの専門家だからトピックbのことを聞くのは的外れかな」と思うかもしれませんが,事前に面識があり,真面目な研究の話であれば,殆どの人は真剣に相談に乗ってくれるのではないかと思います(とはいえ,マクロの先生にhealthの質問をするという話ではなく,マクロ金融の先生にマクロ労働っぽいの話を持っていくくらいの程度の話です).

特にネタが1つ思い浮かんだら,それをいきなり持っていくのではなくて,2,3個アイディアや興味があるトピックを持っていくと良いと思います.この理由は,1つしかないアイディアを否定されるとメンタルに来てしまいがちだと思います(一個だと入れ込んでしまうんですよね).一方,ある程度数があると多少気が楽だと思います.

(とても個人的な意見で,教員それぞれでしょうが)個人的には素直に相談することも重要だと思います.コアと研究に大きな壁があることは教員側も分かっているので,修士で何がしたいかさえ分からない場合はそれを素直に言うのも一つの手です.教員側にも学生の指導方法には色々な違いがあります(例えば,自分の好きなトピック等を学生にも研究してほしいと強く思うタイプや,どんな内容でも面白ければOKの人,ミーティングの頻度等々).なので,ある程度早めから教員の指導の雰囲気を探って,自分と合いそうかどうかを考えることも少ししておくと良いと思います(といっても,分野を選んだ時点で,選択肢は数人に絞られるでしょうから,細かい指導方針の要求には学生は従う他ないので,殆どの人は深く気にする必要も無いと思います).

また,修論・博論や進級試験の論文,どれも最終的には良し悪しを判断するのは教員です.事前に相談をし,「こういう風に進めなさい」と言い,そのアドバイスに従った学生は(例え良くない結果でも)落としづらい一方,独断で進めて失敗した学生のことは駄目と言いやすいです.このような側面には,進級試験のための論文審査を受ける際には頭の片隅には置いておくべきことだと思います.

ともかくやってみる

最終的には手を出来る限り動かすのが正義です.案ずるより産むが易し,は重要な考え方な気がします.手を動かすと,途中でアイディアが出ることもあります.

学振への心の準備

学振とは,学術振興会が出してる研究費で,博士課程の場合,月20万円と研究費がもらえます.大体2割程度の人が通るため,博士課程の収入源としては最も有名かつチャンスの大きなものになります.修士の人にとっては,M2になった直後の5月に提出書類の期限が来ます.そのため,M1の夏休みと春休みでトピックを決めて,ある程度論文を読んでいる必要があります.

私もM1の頃には学振のことを知りませんでした(まして,私は進路に悩んでいたのでM2で少し就活をしたり,やめたり,また再開したりしていました).こういったことはMARCHや関関同立で大学院進学の情報が無い人には,全く知られていないことだと思うので気を付けた方が良いかと思います.一般にM2の初期頃は皆大した準備が出来ていなので,準備をきちんとするだけで勝率が大分あげられるのではないかと思います.

3.(民間就職の場合)就職の準備

(※:今の就活シーズンを私は大して知りません)

民間就職を希望する場合,年ごとに就活シーズンに多少の変化があれど,M2には本格的な就活が始まるでしょう.特に人気企業に行きたい場合,M1の夏にインターンシップに行くことも重要になるかと思います.そのM1の夏のインターンシップの書類審査は6月等には始まると思います.つまり,民間就職を希望する場合,入学してすぐに就活準備を始める必要性があるということです.

就職か博士課程か悩んでいる場合でも,このスケジュールには気を付けておくべきかと思います.「とりあえずコアコースを受け終わってから,就職するかどうか決めよう」では,少し遅れてしまうことになります(とはいえ,インターンに行かなければ全くどこにも就職出来ないというものでもないと信じたいですが).私はまさに就職か進学かとても悩んでいて,ぐずぐずしてしまいました.結果としては幸い進学したことに後悔はないのですが,当時は一つ間違えていれば人生につまづく直前の態だったなと今になって思います.

4.おわりに

総じて,修士課程は短いので,事前の準備がとても重要だと思います.そして,ここで書いたことは,「私が修士のときにこんなことが出来ていれば良かったな…」と思うようなことです.私も全然出来ていませんでしたし,おそらく,限られた人しかちゃんと出来ていないんじゃないかな.なので,全部が完璧に出来ている必要なんてありません.むしろ,(極論)研究さえ出来て,迷惑さえかけなければ,他はある程度目をつぶってもらえるのが研究機関だと思います.なので,ひとつひとつを真面目に取らず,どれか一つ強みを伸ばせたらそれで良いんじゃないかと思います.

最後に関関同立やMARCHの人に伝えたいことが,旧帝の大学院に進学することは,単に研究者にチャレンジするだけではなくて,民間就職のための学歴アップにもつながるので,大学院進学のデメリットはとても小さいと思います(学歴ロンダ云々が就活で損してる話は私も驚くほど聞いたことがないです.気にしてるのは本人と悪意のある一部の人だけなんでしょうね).なので,経済学を勉強していて楽しいと思った人にはどんどん大学院に挑戦してもらえたらなと思います.この記事が少しでも心の準備の役に立てばと思います.